日本は何故ダイソンやiphoneを生み出せないのか
- カテゴリ名:役立ちコラム
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サイクロン掃除機や羽のない扇風機で家電業界の風雲児となったダイソン。
高額であるにも関わらずスマートフォン業界トップの売り上げを誇るiphone。
どちらも好奇心あふれるデザインと斬新かつシンプルで使いやすい機能を両立させ、世界中で爆発的に売れているものです。
日本の製造業が、この2つを生み出せない理由はどこにあるのでしょうか。
商品の仕様だけではもう売れない
商品の性能が優れている上、故障しにくいという日本の製造業への評価は今も昔も変わりません.。
しかし日本の製造業は未だに商品の仕様を向上させれば商品が売れると信じている所があります。
車で言えばGT-Rの様な高額でハイパワーなものや、デザインを省き使いやすさと代替えしやすさにこだわった軽自動車、1BOXカーなどです。
この2つが、第二のダイソンやiphoneと言われるほど魅力的な存在であれば国内の自動車産業がバブル崩壊前に比べて低迷するはずもないのです。
商品の仕様だけで売ろうとすると画一的で魅力に欠ける商品しか作れず、爆発的ヒット商品を作れなくなってしまいます。
その原因は具体的にどこにあるのでしょうか。
過去20年に市場で起きた変化
製造業やエレクトロニクス産業が魅力的な商品を日本国内のみならず、世界にも積極的に配信し続けていたのは、’60年代~’90年代初めまでです。
つまり、戦後の世界に追いつけ追い越せの時代から、バブル崩壊までです。
バブル崩壊から20年、製造・エレクトロニクス産業を中心に市場に大きな変化が出来ました。
事業の標準化が進み、新規参入が容易になりました。
雇用の流動化で、有能な技術者が引き抜かれ、各製造業に同じ様な人材が行きわたったため
商品の仕様を差別化しにくくなりました。
機能的価値とは
商品の仕様から消費者が得られる価値を機能的価値と言います。
スマホを例にすると、大容量だから動画を沢山取り込めるというのが機能的価値です。
日本のものづくりは商品の仕様を高める事、つまり機能性価値をあげれば、消費者が商品を購入してくれると思い、商品開発に勤しんできました。
しかし、私たち消費者は普段商品を買う時に商品の仕様=機能的価値だけで選ぶでしょうか。
同じ効果で値段も変わらない化粧水が二本目の前に並んでいたとすれば、パッケージデザインが美しかったり、使いやすい方を無意識に選んでいると思います。
消費者が商品を選ぶ時の主観が商品価値に付随される様になったのも、ここ20年で市場に起きた変化の一つです。
健康食品のCMで、プロやモデルが、この商品はこんなに凄いとアピールするよりも、身近な読者モニターがテレビショッピングでアピールして売れる理由はここにあります。
芸能人が宣伝するよりも身近な人が宣伝する方が、消費者の本音、主観に近いからなのです。
何故ダイソンやiphoneは高くても売れるのか
ではダイソンやiphoneは何故高くても消費者が買うのでしょうか。
そこには消費者が主観で決める商品価値があるのです。
消費者が主観で決める商品価値の在り方と、ダイソンとiphoneが実際に行っているものづくりの現場体制と、日本の製造業の在り方とは、どう違うのでしょうか。
情緒的価値とは
企業側が「商品が出来る事」を数値で表すのを機能的価値というのに対し、
消費者側が商品を使ってみて面白い、気持ちいい、使いやすいと感じる価値を「情緒的価値」と言います。
2昔前までは、機能的価値の向上に消費者は驚き、寄り添い、次はどんな素晴らしい商品が出来るのだろう、社会を変えるのだろうと期待していました。
現在、機能的価値は横並びの時代になり、使って面白いか、楽しいか、スタイリッシュかという理由で消費者は商品を選ぶ様になりました。
CMで素敵だと宣伝しても、消費者の意向にそぐわなければ商品は見向きもされません。
iphoneと他のスマホを比べれば、iphoneで出来ない事は取り立ててありませんし、ダイソンの掃除機や扇風機でなければ絶対出来ない事はありません。
ただ、この2つは消費者からみて『使って好奇心をそそられる楽しいもの』であり、『デザインが良い』という点では合格点の商品なのです。
これが、消費者が『情緒的価値』で商品を選んでいる事になります。
商品には、見た目+機能+使い勝手の良さが求められる
情緒的価値だけでは勿論商品は売れません。
消費者は、見た目、機能、そして使い勝手の良さが完璧な事を求めています。
ダイソンやiphoneを作ったアップル社が売れ続ける商品を輩出する理由は、「機能的価値」を作るエンジニアと「情緒的価値」を裏付けるデザイナー、両方の教育を受けた社員を配置しているからだと言えるでしょう。
エンジニアは客観的かつ論理的、デザイナーは主観的で、本来水と油と言われています。
その両方の教育を受けた人間が、ものづくりの現場に配置される事により、ものづくりを
「俯瞰」の立場から見る事ができるのです。
「もしもお客様がこの商品を買って使ったらどうなるか」これが俯瞰の立場です。
見た目、機能、使い勝手の三方よしを両立させるヒントはここにあります。
今までの日本のものづくりは、機能の一本だけでした、残りの2つを作ればいいだけです。
日本にもある、高くても売れるもの
かつてあったはずの、日本で「高くても売れたもの」。
それが衰退した理由を深く掘り下げてみましょう。
もしかしたら日本の高くても売れたものは、一部の分野にだけ評価されていたのではないでしょうか。
製造業の在り方を、アニメや漫画のコンテンツ輸出と同じ様に考えていると、世界に通用するものづくりは出来なくなります。
一部の人間にウケるようにすると、iphoneにはなれない
日本にも情緒的価値で売れるものはありますが、残念ながらいずれもiphoneの様な位置づけではないのが現状です。
それは一部のマニアにのみ売れる、ウケるという「ヲタク」の領域を出ないからです。
これは悪く言うと排他的でもあります。
日本は悪い事に、同じ趣味や人生観を持つ者同士が固まり、少しでも考えが違う人間をはじく傾向にあります。これがiphoneやダイソンを生み出せない土壌を作っているのです。
元々あの2つの製品は、周囲の大反対を押し切り作ったものでした。
今の日本には、全く価値観も人生観も違う人間に囲まれながら革新的アイデアを貫き、周囲を説得する人は少ないと思います。
一部の間にだけ素晴らしいと騒がれても、その分野に何の興味もない人を説得できない商品を売り続け、開発し続ける会社に未来はないでしょう。
新幹線とCDプレーヤーに学ぶ「高くても売れるもの」
では日本は「高くても買って貰えるもの」を作れないのでしょうか。
そうではありません。
東海道新幹線や、SONYのCDプレーヤーを開発した頃の日本を思い出して見てください。
東海道新幹線が開通する直前の日本は東京五輪寸前。
蒸気機関車全盛期でありながら、鉄道の電化が進み、事故が多発していた時代。
周囲の目は「建設予算が膨らむ、超特急なんか必要ない」といい、夢の超特急・新幹線を開通させた当時の国鉄総裁は引責辞任となりましたが、今では新幹線のない世の中は信じられません。
CDプレーヤーも「まだレコードがあるじゃないか」と周囲の冷たい目線を浴びてデビューしましたが、デジタル音源の先駆けとなった事は確かです。
周囲が「そんな新商品喰えるのか?」という奇異の目を向ける中成功させた商品こそ本物なのです。
スポーツ仲間同士で作ったTシャツが売れた、マニア向けの同人誌が売れた、富裕層が投資目的で買ったワインが売れたというのは、市場に入りません。
新幹線はアラフォー以降誰もが「乗ればワクワクする」という情緒的価値が位置付けられた乗り物でした。
時代を巻き込むものづくりが、今の日本には欠けているのです。
反対する人を振り向かせてこそ製造業
ダイソンもiphoneも、周囲の猛反対を押し切ってリリースした商品でした。
成功に行き着くまでの大失敗もありました。
今の日本の製造業は機能的価値は十分あるにも関わらず、画一的な商品しか作れません。
これは反対する人を振り向かせる「情緒的価値」を商品に付加できていないからです。
ダイソンやiphoneとの違いは、ここにあります。
「その新商品、喰えるの?面白くないんじゃない?」と反対する人に言わしめる事が、今の日本の製造業の課題なのです。
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