未経験でも言語聴覚士に転職は可能?業務内容や資格試験について詳しく解説します。
- カテゴリ名:業界・職種・企業研究
映画『英国王のスピーチ』において、国王の吃音を治療する専門家として登場した人物といえば、その役割を理解される方もいるかもしれません。あの仕事も現在の言語聴覚士の役割の一つです。
言語聴覚士は日本においては1999年に国家資格となった比較的新しい専門職と言えます。アメリカには15万人以上の言語聴覚士がいますが、日本にはまだ約2万5千人の資格保有者しかいません。現在でも現場の需要に比べて、この資格保持者が相当数不足していると言われています。今後ますますその重要性と活躍の場が増えそうな「言語聴覚士」という職業についてみてみましょう。
目次
言語聴覚士とは?
言語聴覚士は、言語・聴覚・音声・認知・発達、そして摂食・嚥下に関する障害に対してサポートをする専門家です。
言語や聴覚などは他者とのコミュニケーション、摂食・嚥下はまさに食べることであり、どちらも人が生きていく上では欠かせないものです。それらに障害を持つということは当然のことながら、日常生活すら大変な困難を伴います。
そんな人々の症状の発現に至る過程を検査分析することで、必要に応じて支援や訓練を施しますことが主な仕事と言えます。現在では医療機関はもちろん、保健福祉施設や教育機関でも活動することも多くあります。英語のSpeech-Language-Hearing Therapistを略して「ST」とも呼ばれています。
言語聴覚士の仕事内容
資格を持った言語聴覚士も経験や実績に応じて期待される役割は違いますが、医療機関やその他の現場の働く環境によっても、従事する仕事の役割や幅が若干異なってくる場合があります。もちろんどちらの職場においても共通して求められる仕事もあります。
コメディカルスタッフとして
コメディカル(医療従事者)として、医療機関において医師や看護師のほか、理学療法士、作業療法士、視能訓練士と連携しながら、障害を持つ方のリハビリテーションのサポートを行います。
具体的には「聴覚」の障害に対しては、症状に合わせた検査や訓練のほか補聴器のフィッティングなどを行います。また「食べること」に対しては「咀嚼して飲み込む」ための器官の運動訓練や反射訓練を指導します。
保健・福祉、教育現場において
特別支援学校などの教育の現場や老人介護施設などの福祉施設でも言語聴覚士が配属されているケースも多くあります。
子どもの発達障害などに対して、コミュニケーションや言葉に関心も持たせると同時に、文字や語彙、文法の習得を促すなどの「ことばの獲得」を支援しています。また、失語症や認知症など成人の後天的な言語障害に対して、発生の原因と症状のメカニズムを検査分析し、患者それぞれに応じたリハビリのプログラムを作成します。
さらには、そういったハンデを持つ方の家族への助言や指導・サポートも重要な役割の一つです。
言語聴覚士で身につくスキル
言語聴覚士という資格取得者自体が不足している現状では、資格の保持こそが大きな武器ともなりえますが、それを取得する過程自体がスキルアップのための大事な経験とも言えます。
今後もこの職業の社会的立場や重要性が上がってくることが予想され、任される職域も拡大してくるかもしれません。さらに、「日本摂食・嚥下リハビリテーション学会」などでも学会認定士の資格を言語聴覚士が申請すれば取得することも可能です。
まだまだ発展途上にあると言われる日本のリハビリ医療の現場においては、言語聴覚士としての様々な経験がスキルとして将来的にも役立ち、幅広い活躍の機会を得ることが可能になるでしょう。
言語聴覚士は未経験でもなれる?
言語聴覚士として働くためには国家資格を取得する必要があります。
高校卒業者であれば、文部科学省が指定する大学や短期大学、もしくは都道府県が指定する言語聴覚士養成所を卒業することが国家資格試験を受けられる条件となります。また、大学卒業後に資格取得を目指すのであれば、2年制の専修学校を卒業することが必要です。
もし外国でそれらに準じる学業を修めていれば厚生労働省の認可を受けることで日本国内でも国家試験の受験資格を得られます。国家資格に合格すれば、就職率はほぼ100%と言っても良い需給関係にあります。
言語聴覚士に必要な資格
年一回の試験に合格すると、厚生労働省の免許が与えられ言語聴覚士としての資格を得ることが出来ます。
試験内容は基礎医学、臨床医学、臨床歯科医学、音声・言語・聴覚医学、心理学、音声・言語学、社会福祉・教育、言語聴覚障害学総論、失語・高次脳機能障害学、言語発達障害学、発声発語・嚥下障害学及び聴覚障害学など多岐にわたりますが、専修学校などの卒業生にとっては合格率も高く、それほど難関ではないとも言われています。
また国家資格などではありませんが、リハビリテーションなどに関連した研究を行う学会などが認定する「学会認定士」などもあります。これらは言語聴覚士として現場で働く上でも、信頼性を厚くし、業務の幅を広げることに繋がります。
言語聴覚士が向いている人
国家資格ということもあり、高い知識や専門性を持ち合わせることは言うまでもありませんが、障害を持つ患者を相手にする上では様々な能力や適性が求められます。多くの症例や様々な患者に対応することで身に付くこともありますが、言語聴覚士を目指すうえで自らの性格や適性を把握しておく必要もあります。
寛容性と忍耐力
障害を克服するためのリハビリや訓練というものは、一朝一夕で効果や結果が表れるものではありません。
何カ月、何年ものリハビリを通してやっと僅かな改善がみられるといったケースも少なくありません。そんな状況でも、患者に対して優しく寄り添い、粘り強く続ける必要があります。
もちろん色々なタイプの患者がおり、患者自体もリハビリに取り組むためには、強い精神力や体力を使うことを強いられ、時に挫折しそうになったり、自暴自棄になるケースもあるかもしれません。そんな患者たちに対しても、理解を示し穏やかに包み込む寛容性と、そんな状況を長い目で対応しながら従事できる忍耐力が求められます。
洞察力と敏感さ
言語聴覚士は、日々患者を観察し、その細かな動きや反応、動作に鋭く気づき、そのことがポジティブなものか、ネガティブなものなのかなど、患者にとってどういった意味をもつものなのかを考えなければなりません。
そうした日々の洞察と分析の積み重ねが患者一人一人に対して適切な治療や訓練を進める上で必須な情報となるからです。日頃から物事の小さな変化に敏感に気が付いたり、何気ないことにも洞察力をもって向き合えるタイプの人は言語聴覚士としての適性があると言えるでしょう。
向上心と柔軟性
医療に関わる研究は日々進歩しています。
同時に言語聴覚士が携わる脳の分野ではまだまだメカニズムが解明されていない領域もあります。もちろんそれらに関しては専門の医師の判断と指示を受けることが大切ですが、言語聴覚士であっても、現場にいるからにはそうしたものを常に学び続け、役立てるという向上心を持っていることが大切です。
同時に様々な症状や性格を有する患者に対しても、旧態依然の画一的な方法を押し付けるだけでなく、柔軟に色々と試してみようと考え、医師達に対してアドバイスや提案を行うことが必要な状況もあるでしょう。
言語聴覚士として働く上で気をつけること
言語療法士は医師や看護師と同様に、患者という「人」を扱う職業です。それも障害を持った人は、コミュニケーションに時間が掛かったり、意思の伝達がスムーズにいかない状況も多く想定されます。そんな状況下においても、常に神経を使い、気を付けなければならないことがあります。
患者との接し方
大前提として、言語聴覚士の対象となる患者さん(特に脳に障害を持ったひと)の多くは、たとえどんな厳しい訓練やリハビリを行ったからと言って、「完全に治る」・「後遺症も残らない」というケースは少ないということです。
だからこそ専門家として患者と真摯に向き合い、現状と予後について明確な説明をしなければなりません。そしてそれは、患者の希望を打ち砕くものではなく、ポジティブにリハビリに励んでもらえるように促さなければなりません。
また同時に患者の家族に対しても、状況の理解と将来的な予測を的確に伝えることで、それぞれの心の準備を促しながら出来る範囲での協力を得るための努力を続けなければなりません。
スタッフの連携
医療の現場において、言語聴覚士はリハビリや訓練といった役割を求められますが、当然一人で全ての患者に目が行き届くわけではなく、また担当患者に付きっきりでお世話をするわけにはいきません。
医師や看護師、他のスタッフとのスムーズな連携が不可欠になります。患者の現状におけるリスクや、患者の性格なども共有することでリハビリや訓練もより合理的に円滑に進められるはずです。また、医師や看護師たちの信頼を得ることは自らの働く環境を良くするだけでなく、治療やリハビリを受ける患者にとっても安心して取り組める空気の醸成にも繋がるはずです。
言語聴覚士の重要性と今後の活躍
現在、日本における言語聴覚士の有資格者は人口10万人あたり21人で、アメリカに比べて約4割程度となっており、地域によっても大きな格差があると言われています。高齢化の現代では、医療現場のみならず老人福祉施設などにおいても、今後ますます有資格者の需要は増え、その役割の重要性も増してくるはずです。
人間は根源的に、人とつながりコミュニケーションをとることが生きる上での大きな喜びのひとつです。それが不自由になるということは物理的な生活を困難にするだけでなく、日々の楽しみや喜びが減るという精神的な喪失感を伴います。
言語聴覚士がそんな人々に寄り添いサポートすることは、生活を改善することと同時に、もしかしたら完治はしないかもしれない症状の患者であっても、その後の人生をポジティブに捉え、新たな生き方の方向を示すヒントを与えるきっかけになるかもしれません。
言語聴覚士にだからこそ出来る人との関わり方がきっとあるはずです。言語聴覚士が出来るかもしれない可能性は決して小さくありません。
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