退職前に必ず覚えておきたい!残業代の正しい計算方法と基礎知識
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※こちらの記事は三愛労務管理センター所属の社会保険労務士である小宮 千星さんからの寄稿になります。
アルバイトの方だけでなく、社員の方も「ウチの会社では残業代はでない」と言っているのを聞くことがよくあります。
残業をすれば割増賃金をもらう権利は当然に発生します。
1回だけなら大した金額ではないかもしれませんが、数か月単位・年単位になれば、見過すことはできないでしょう。
そこで、今回は残業代について基礎的なことを徹底解説します。
最後まで読んでいただければ、残業代の計算方法を理解して、不足する残業代があるかを確認できるようになります。
残業代の種類を解説
まず、残業代の種類を確認していきましょう。
法律で残業代を支払うことは義務付けられていますが、その残業代の名称までは法律で定められておりません。
そのため、会社によって残業代の名称は異なりますが、一般的には次の名称で呼ばれているものが主な残業代の種類になります。
時間外手当は通常賃金の1.25倍
時間外手当は、1日8時間を超えて働いた場合または1週間40時間を超えて働いた場合に支払われる割増賃金で、一般に残業代といえば、多くがこの時間外手当のことを指します。
割増賃金率は通常の賃金を1.25倍以上(ほとんどの会社が1.25倍)にすることが、労働基準法で定められています。
これから紹介する割増賃金の掛け率も、ほとんどの企業で採用されている最低基準を記載しております。
深夜手当は通常賃金の0.25倍が加算
深夜手当は、午後10時から午前5時までの時間帯に働いた場合に支払わる手当になります。
1日に1時間だけ働いたとしても支払われるため、厳密には残業代とは言えないかもしれませんが、同列に議論されることが多いので残業代の1つとして話を進めています。
通常の賃金の0.25倍を上乗せした手当としなければなりません。
深夜時間外手当は→通常賃金の1.5倍(1.25+0.25)
残業が深夜に及んだ場合は、時間外手当が1.25倍でそれに深夜手当の0.25倍が上乗せされますので通常の賃金の1.5倍になります。
法定休日手当は通常賃金の1.35倍
法定休日手当とは、文字通り、会社の休日に働いた場合に支給されるのが休日手当で、通常の賃金の1.35倍の手当てになります。
ただし、法定休日については注意が必要です。
労働基準法上の休日は1週間に1回以上(4週間に4回以上)与えなければならないとされており、会社の休日が必ずしも労働基準法が定める休日にあたるわけではありません。
そのため、「法定休日手当」は労働基準法で定める休日(法定休日)に労働した場合に支給されるものになります。
法定休日以外の休日に働いても原則残業代はつきませんが、1週間の労働時間が40時間を超えた場合は「法定外休日手当」として割増賃金率1.25(時間外手当と同じ)で支給されます。
深夜休日手当は通常賃金の1.6倍(1.35+0.25)
休日の労働が深夜に及んだ場合は、法定休日手当てに深夜時間外手当の0.25が上乗せされる考え方になります。
すなわち、休日が法定休日なら1.35倍に0.25倍を上乗せして1.6倍、法定外休日なら1.25倍に0.25倍を上乗せして1.5倍になるのです。
休日に8時間以上働いた場合
ちなみに、休日の労働が1日8時間を超えた場合は、時間外休日手当として休日手当にさらに上乗せして支給されるでしょうか?
答えは、「否」です。
休日にはそもそも時間内と時間外の区別がないというのが、その理由です。
そのため、休日の労働が8時間を超えても割増賃金率は1.35倍のままになります。
残業代の基礎となる賃金
残業や深夜労働や休日労働をした場合に、どれだけの割増賃金が発生するのか説明してきました。
ここからは、いままで簡易的に「通常の賃金(もしくは通常賃金)」と表記してきたものについて、もう少し具体的に説明してみたいと思います。
つまり、「割増賃金の基礎となる賃金」についてです。
基本給だけならそれを1時間あたりの賃金に換算して、それを1.25倍なり1.35倍なりを掛けて計算すればよいのですが、その他に手当がある場合は、その手当が「割増賃金の基礎となる賃金」に含まれるかどうかを判断しなければなりません。
「割増賃金の基礎としなくてもよい手当」というのは労働基準法及び労働基準法施行規則で決まっており、次の7つの手当てが該当します。逆に言えば、これら以外の手当はすべて割増賃金の基礎となる賃金に参入しなければいけないということになりますので覚えておきましょう。
- 家族手当
- 通勤手当
- 別居手当
- 子女教育手当
- 住宅手当
- 臨時に支払われた賃金
- 1ヵ月を超える期間ごとに支払われる賃金の手当
それぞれの手当てについて簡単に説明してみたいと思います。
ただし、子女教育手当は現在では一般的ではないので説明を割愛しています。
家族手当
配偶者や扶養する子ども1人あたりに対して決められている手当です。
通勤手当
いわゆる交通費のことになります。
ただし、交通費の多寡にかかわらず一律決められている場合は、割増賃金の基礎としてもよい賃金とはならず、残業代のもととして算入しなければなりません。
別居手当
業務の都合により、住所地から離れて働く場合に支給される手当のことで、いわゆる単身赴任手当のことです。
住宅手当
持家や賃貸によって支給される手当のことです。
区別なく一律に決められている場合は、割増賃金の基礎としてもよい賃金とはならず、残業代のもととして算入しなければなりません。
臨時に支払われた賃金
不定期に支給される大入り袋などがこれに該当します。
1ヵ月を超える期間ごとに支払われる賃金の手当
いわゆる賞与がこれに該当します。
残業代の計算方法
残業代の計算方法は、1時間あたりの賃金に割増賃金率を乗じた金額になります。
アルバイトなど時給計算の場合は、通常もらっている時給単価にかけるだけなので、残業時間数さえ分かっていれば簡単に割り出せます。
少し難しいのは、月給の場合です。
月給から1時間当たりの賃金を割り出さなければならないからです。
1時間当たりの賃金の割り出し方法を雇用契約書や就業規則に明記されていれば、法律に反しない限り、それに従います。
月給 ÷ 月の平均所定労働時間
もし、そのような取り決めがない場合には、月給から残業代の基礎とならない賃金(交通費など)を引き、そこから「月の平均所定労働時間」を割って計算します。
月の平均所定労働時間 =
(365 – 年間休日日数) × 1日の所定労働時間 ÷ 12
月の平所定労働時間とは、年間暦日数(365日か366日)から年間休日日数を引いたものに1日の所定労働時間を掛けたもの(年間の所定労働時間)を12か月で割ります。
年間休日日数が分からないときは、下の図を参考にして、1日の所定労働時間が8時間の場合は、105日で計算して割り出します。(1日の所定労働時間が8時間の場合に必要な休日日数で計算しています。)
大企業の特例
大企業に勤務している場合には、一定の時間を超える残業については、割増賃金率がアップします。
これは長時間の残業代を抑制するために設けられた制度です。
今のところ対象が大企業のみですが、法律改正で、大企業以外の中小企業も対象になる可能性があるので、大企業以外で勤務の方も参考にご覧ください。
まず、大企業に当たるか否かは、次の表で判断します。
業種 | 資本金の額または出資の総額 | かつ | 常時使用する労働者の数 |
---|---|---|---|
小売業 | 5,000万円超 | 50人超 | |
サービス業 | 5,000万円超 | 100人超 | |
卸売業 | 1億円超 | 100人超 | |
その他 | 3億円超 | 300人超 |
勤務先の会社が上の表のいずれかに該当すれば、大企業の特例の対象になります。
次に特例の対象となる時間ですが、それは「1か月に60時間を超えた残業時間」になります。
その部分の残業代は、通常の残業代にさらに25%上乗せた金額、つまり割増賃金率1.5倍で計算します。
なお、25%上乗せ部分については有給休暇を付与することで、その部分の支払いを不要とすることもできます。
ただし、この規定は少々複雑なので、これに該当する場合は専門家に相談するのが望ましいでしょう。
残業代の時効について
転職や退職を考えている方にとっては、最も気になるトピックの1つだと思います。
支払われていない残業代があって、その残業代を請求する場合はいつまで遡って請求できるのでしょうか?
賃金についての時効は、請求できるときから2年と定められています。
そのため、残業があってから2年が経過した場合、支払われていない残業代の請求権は消えてしまいますので早めに請求することが肝心です。
特に、退職後は請求するのが遅れるほど、請求できる金額が減っていくので注意してください。
まとめ
以上、残業代について解説してきました。
計算方法もご理解いただけたと思います。
もし、現在の勤務先で残業代が支払われていない場合には、これに従いいくら残業代があるかシミュレーションしてみてください。
支払われていない残業代を請求するときには、計算方法の理解はもちろん、残業時間がどれだけあるのかをある程度は正確に把握していることが必要です。
実際の危惧として、不足の残業代を請求した際に会社側がタイムカードを開示しなかったり改変したりする恐れもあるのです。
そのため、手帳などに労働時間を記載しておくなど、証拠を残しておくようにするのがよいでしょう。
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