どの企業も意外に混同!企業理念と経営理念の違いとは?

どの企業も意外に混同!企業理念と経営理念の違いとは?

中期経営計画の立案担当になったり、または転職活動などで企業の公式サイトを調べたりした時に、「企業理念」や「経営理念」を考えたり、あるいは目にしたりすることがあるでしょう。しかし、いろいろな会社のものを見ても、その違いが分からないことの方が多いのではないでしょうか。ある会社は経営理念だけがあり、ある会社は両方がある、という場合もしばしばです。

しかし厳密にいうとその2つは別物です。その点について混同している会社、あるいは経営者も多いでしょう。

そこでここでは、その2つとは何なのか、そして違いはどこにあるのか、といった点について解説します。

企業理念と経営理念の違いは一言で言うと主体の違い

企業理念とは会社の理念、経営理念とは経営者の理念のこと

まずざっくりと定義を言うと、上のようになります。つまり、その理念を持っている「主体」が違うわけです。

企業は経営の上にくるもの

したがって、どちらがより上位概念かというと「企業理念」になります。なぜなら、経営者は数年、長くても十数年で交代するものですが、企業は倒産したりM&Aされない限り、ずっと存続し続けるからです。

つまり、まず企業理念があり、それを踏まえたうえで経営理念がある、という構造です。

企業理念とはミッション、ビジョン、バリュー

それではそのうちの企業理念とはどういうものか、もう少し詳しく説明します。

企業は社会の公器ということが大前提

そもそも企業は何のために存在するのかというと、「社会のため」です。なぜなら、仮に自社の利益だけを追っている企業があったとしてそのためにはどのような手段を使ってもよいと考えていたら、一時的には成長した繁栄したりするかもしれませんが、必ずいずれは社会から糾弾され、見放され、消えていきます。これは過去の経済の歴史の中でも明らかです。

企業はその意味で「社会から存在することを容認されて、初めて存続できる」のです。したがって、「存在してもいい」と思ってもらえるだけの価値を社会に提供し、社会に貢献しなければなりません。

ただそれはもちろん、無償の社会貢献活動を一生懸命すればよいのか、という問題ではなく、世界的な社会学者であるP・F・ドラッカーが言っているように「顧客に貢献するのが企業の存在意義であり、その顧客を創造するのがビジネスの目的である」ということです。つまり、何らかの価値を社会に提供し、それを消費者が購入したり選択してくれる、ということでその企業は存続する意味があるのです。

企業理念は会社が最も大切にする考え方

企業理念とは、以上を前提にしたときの、「企業が最も大切にする基本的な考え方」のことです。したがって、よほどのことがない限り、企業理念は長期に渡って変わることがない内容でなければなりません。具体的には、「会社の目的」「存在意義」「最も重視する価値観」を言葉で表現したのが、企業理念ということです。

企業理念に盛り込む内容

最近はその3つの要素を、

ミッション:使命
ビジョン:志、展望
バリュー:価値観

という言葉で表している企業が多いです。いずれにしても、言おうとしていること、定義しようとしていることは同じです。

経営理念とは何か

この企業理念に対して、その下位に位置する経営理念とはどういうものでしょうか。

既に存在している企業をどのようにカジ取りしていくかの指針

経営理念は「今社会に認められて存在している企業をどのように進めていくのか」ということの宣言であり、定義です。したがって、経営者が変わるたびに社会に提供する価値が変わったらおかしいので、企業理念は原則としては不変のものですが、経営者が変わったら経営戦略が変わることもありますので、経営理念はたびたび変わることがあるということです。。

あるいは時代の流れによって、ビジネスの中身が変わればむしろ変わっていくべきものです。

経営理念として盛り込む内容とは

経営理念は一般的には、社会、顧客、従業員、そして場合によっては取引先という4つのステークホルダーに対しての、目指すものとして設定される場合が多いです。内容はその時の経営者がどのように考えるかの反映なので、企業理念から逸脱していなければ問題ありません。ちなみによい経営理念の条件として、カヤックという企業は以下のような方針を挙げています。

1 成長性を示唆していること
2 理念から戦略&戦術のヒントがあること
3 社会に貢献するものであること

ただし、たとえば「当社は毎年配当を3%出します」などは「理念」とは言えませんので、あまり具体的なものはふさわしくないでしょう。

さらにそれを日常の行動に移したものが行動指針

ちなみに、この経営理念を、日常の仕事の中で実現するための基本姿勢や手法として示したものが「行動指針」「行動規範」と呼ばれるものです。ここではかなり具体的に「チームワークを大切に仕事をする」などの言葉に落とし込まれます。

企業理念と経営理念を明確に分けたAlbert社の事例

しかし、ここまで明確に、企業理念と経営理念を区別して定義している企業は少ないのが現実です。中には行動指針レベルものを、経営理念として掲げている企業もあります。だからと言ってその企業の存在価値がないということではありませんが、しかし定義からずれているということはできるでしょう。

その中で、この2つを明確に区分して定義している企業に、Albertという会社があります。ここは、データマイニングエンジンの開発や提供、行動ターゲティングをベースにした広告システムの展開などを主なビジネスの柱にしている企業ですが、参考までにその内容をご紹介しておきます。

まずAlbert社は、経営理念と企業理念を示す前提として、明確に以下の通り両者を定義しています。

”企業理念は経営者が企業を経営するにあたっての普遍的な考え方や、伝えていきたい文化およびステイクホルダーに対する愛情を示したものです。一方で経営理念は企業理念をベースに、時代のニーズや世の中の流れに対応する経営の方向性を指し示すためのものだと整理しています。”

非常に正確にこの2つの違いをとらえていると言えるでしょう。そしてそれを前提に定義している企業理念と経営理念は以下の通りです。

「企業理念」
企業は「公器」
会社にとって一番大切なのは社員
どんな人と仕事をするか(※注:これについては説明文の中に「問題解決に対して常に前向きである人」と示しています)
功に応じた報酬
成功の姿(※注:これについても「一部上場企業の平均と比べて、社員の『休みは1.5倍、所得は2倍』と補足しています)

「経営理念」
分析力をコアとし、顧客の意思決定と問題解決を支援する

いかがでしょうか。内容に対する共感は別にして、Albert社は上記の区分に沿って、このように定義しているわけです。

究極的には、企業理念と経営理念が混同されていてもいい

事典でさえその2つを混同している

ここまで企業理念と経営理念の違い、そしてそれを混同している企業が多いということを述べてきましたが、しかしそれが「悪」と言っているわけでありません。なぜなら、きちんと一般に販売されている事典でさえ、この2つの混同を認めている例があるからです。

「世界大百科事典 第2版の解説」より
けいえいりねん【経営理念 business philosophy】

”企業の創設者および経営者が、その企業経営についてもっている基本的考え方。企業理念、経営信条、経営哲学などといわれることもある。それは、企業の社会的な役割についての信念として表現されることもあり、企業内の管理・運営についての考え方として表現される場合もある。通常、経営理念はその企業の活動する社会での一般的な文化構造、またその企業の事業の種類などを反映している。そのため経営理念は、国によって、また時代によって異なることがありうる。”

「企業の社会的な役割についての信念」はここまで説明してきた定義では「企業理念」であって、「経営理念」ではありません。しかしこの事典のなかでは、「そういうこともある」と追認しています。

大切なのは企業に「理念」があること

企業理念と経営理念が混同されていても、本質的には大きな問題ではありません。大切なのは、企業として「理念」を持っていること、そして大前提として「企業は社会に認められて初めて存在する」という認識があるかどうかです。

そしてそういう筋が1本通っている「理念」であれば、それが企業理念と定義されていようと、経営理念と定義されていようと、その企業においては、以下のようなことが起こるのです。

1 経営していくうえでの意思決定に迷わない
2 上司が部下を指導するときに迷わない
3 従業員が自律的に行動し、やりがいを持って働く
4 社内がベクトルのそろった一枚岩になり、その結果大きな力を発揮する
5 顧客や社会に支持され、結果「ブランド化」する

ですので大切なのは「理念があり、それに沿って行動すること」なのです。

社員の規範になる企業理念と経営理念を作ろう

企業理念と経営理念の違いについては、ビジネスマンの「常識」として理解しておいた方がよいですが、それに縛られるのは教条的です。大切なのは、そういう社会に認められる理念を持ち、それに沿って従業員が働いていることです。なので、もしも中期経営計画の立案担当になったり、ある企業の企業理念を見たときには、その考えを基本にするといいでしょう。

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